トップページに戻る
少年リスト  映画(邦題)リスト  国別(原題)リスト  年代順リスト

The Mudlark 浮浪児とヴィクトリア女王

イギリス映画 (1950)

愛する夫、王配アルバートを亡くしたヴィクトリア女王が公務から遠ざかって15年後に起こった歴史上は架空の事件を描いたイギリス映画。1950年の公開なので、35歳という若き日のアレック・ギネスが、72歳の名宰相ディズレーリを演じる雄姿が見られる。アレック・ギネスにとって、本格的な映画出演は、1948年の『オリヴァ・ツイスト』のフェイギン役がスタートなので、その2年後だが、7分近い庶民院での首相演説をワンカットで演じるなど、格段に優れた俳優としての姿を見せつけてくれる。映画は2つの大きな流れから構成される。1つは、年代に若干の食い違いはあるが、ロンドン近郊のウィンザー城、もしくは、スコットランドのバルモラル城の何れかに閉じ籠って国民の面前から姿を消して15年が経過したヴィクトリア女王の態度を何とか変えようと努力するディズレーリ首相の奮闘ぶりを描く場面。そして、もう一つが、ロンドンのテムズ川で泥にまみれてゴミ漁りをしている10歳の孤児ウィーラーが、偶然見つけたカメオに彫られたヴィクトリア女王の横顔に、亡き母のイメージを重ね、何とか一目見ようとウィンザー城に忍び込む場面。両者は、ウィーラーが見つかり、社会的問題となった時に巧く絡み合い、共にハッピーエンドを迎える。ヴィクトリア女王の有名な召使ジョン・ブラウンも登場し、その天衣無縫な態度で映画に華を添える。このサイト作成上の観点からすれば、①英語字幕がない、②発音が非常に聴き取りにくい、③唯一公開されているスペイン語字幕の信頼性が低い、④MKVファイルに入っているロシア語字幕はMKVToolNixを使ってもダウンロードできない、といった問題点があり、あらすじの作成に多大な時間を取られた。

テムズ川の岸の泥の中でゴミ漁りをしていた10歳の孤児ウィーラーは、桟橋の下に転がっていた船員の死体を見つけ、服を探っているうちにヴィクトリア女王の横顔が彫られたカメオを発見する。幼児の時に母を亡くし、奇跡的に生き延びてきたウィーラーにとって、その女性の顔は母を想わせるものだった。カメオを仲間に奪われそうになったウィーラーは、必死に守り抜き、助けてくれた男から、その彫像が「イングランドの母」のものだと教えられるが、教育を受けたことのないウィーラーにとっては意味のない答えだった。それでも、その女性がウィンザー城にいると聞いたウィーラーは、歩いて城まで行き、夜陰にまぎれて中に入り込み、石炭の搬入口から滑り落ちて館内に侵入する。偶然見つけたダイニングルームに入った時、女性の召使に見つかるが、可哀想に思った召使は、ウィーラーを突き出さずに庇ってくれる。カーテンの陰に隠れたウィーラーの前で、女王の晩餐会が始まるが、この肝心な時に、疲れたウィーラーは眠ってしまい、女王を見ることはできなかった。おまけに、かいた “いびき” を女王に聞かれ、女王が避難した後で、不審者として捕らえられてしまう。ウィーラーを取り調べたジョン・ブラウンは、女王の特別な召使で、最初は、ウィーラーを女王の暗殺者として厳しく尋問するが、無垢の子供らしさに気付き、本来は警備の近衛兵に連絡すべきなのに、ウィーラーの話が本当か確かめようと “滑り落ちた” 場所まで案内させる。そして、真っ暗な中で自分も落ちてみて、ウィーラーの正直なことが分かると、女王を一目見たさに侵入した勇気に免じて 女王に会わせてやろうと考える。しかし、その時点でジョン・ブラウンは泥酔状態に近づいていた。そのため、ウィーラーを連れて行く途中で、王座に座らせてやろうと思い立ち、寄り道をしている間に通報を受けた近衛中尉によってウィーラーは逮捕され、ロンドンに送られる。翌朝の新聞各紙は、号外で、過激な憶測記事を書き、タイムズまで、ウィーラーをアイルランド民族主義者の手先と書く始末。この騒ぎを鎮めるにあたり、ウィンザー城から出ようとしない女王を変えようと、首相のディズレーリは、近衛中尉にウィーラー事件の顛末を詳しく調査させ、その内容をもとに、庶民院(下院)で、ウィーラーの擁護にひっかけ、英国の児童保護政策のお粗末さについて大演説を行う。その中で、ディズレーリは巧みに女王の “ロンドン不在” を批判した。ディズレーリは、ウィーラーが演説の役に立ったことから、警察から助け出し、地方の全寮制学校に入れることにする。一方、女王は、ディズレーリの行為を、重大な約束違反とみなし、ウィンザー城に呼んで批判する。ところが、その場に、ウィーラーが出現し…

ウィーラー役のアンドリュー・レイ(Andrew Ray)は、1939年5月31日生まれ(2003年8月20日他界)なので、撮影時は恐らく映画の設定と同じ10歳。映画初出演にして大役を仰せつかった。子役時代に主演した映画は、1本だけ。その『The Yellow Balloon(黄色い風船)』(1953)はDVDを購入したので、将来紹介する(犯罪スリラー)。この映画に出演しているアンドリュー・レイの顔(右の写真)を見ると、3年後の映画なのに、この映画とほとんど変わりがない。

あらすじ

1876年末のロンドン。日本で言えば明治9年に該当するが、産業革命を世界に先駆けて達成したイギリスでは極端な貧富の差が拡大し、ロンドンでは身寄りのない乞食の孤児たちがテムズ川でめぼしいものがないか、泥の中を漁っている(1枚目の写真)。体中が泥で黒く汚れたウィーラーは、桟橋の下にあった死体に気付くと、ポケットに入っていたものを、袋に次から次へと入れていくが、次に手に取ったカメオに彫られた ふくよかな中年女性の彫像に心惹かれる(2・3枚目の写真、矢印はカメオ)。ウィーラーがカメオに見とれていると、仲間の孤児がそれを盗もうとして争いになる。3人目が死体のブーツを脱がし始めたので、2人目もそちらの方が得だと思い、ウィーラーは解放され、争いは2人に任せて逃げ去る。
  
  
  

ウィーラーは、カメオの女性について訊こうと、先輩と一緒に故買商を訪れてカメオを見せる。しかし、故買商は何も教えてくれず、いきなり、「2ペンスで買おう」と言う。ウィーラーが断ると、言い値は6、9、12(1シリング)まで上昇する(1枚目の写真)〔“UK Inflation Calculator” によれば、1876年の1ポンドは、2020年の116.15ポンドなので、1876年の1シリングは2020年の5.808ポンド≒850円〕。しかし、ウィーラーは、「売るつもりなんかない。もってたいから」と断る。怒った故買商は、カメオを投げ捨てると、「失せろ、クズ野郎。お前とは縁切りだ、二度と顔を見せるな。とっと出てけ!」と罵り、ウィーラーを追い払う。この無慈悲な故買商は、“先輩” に、「お前、奴の親爺みたいなもんだろ?」と誘い水をかける。“先輩” は、「1シリングくれるかい?」と訊き、「あたりきよ」と言われると、すぐにウィーラーを追いかける。ウィーラーは、自分が、そんな危険に目に遭うとは思っていないので、いつものねぐらに行き 樽の中に潜り込む(2枚目の写真、矢印)。ウィーラーは、カメオを取り出して、いとしげにキスする。一方、勝手知ったる “先輩” と手下は、ウィーラーが眠ったのを見届けると、樽から引きずり出し、カメオを奪って逃げ出す。ウィーラーは、「お願い、スパロー、もってかないで!」と叫びながら、2人を追いかける。その迷路のようなねぐらには出口があり、そこには一人の管理人がいて、逃げてきた2人を捕まえる。「また、お前たちか!」。「俺たち、何もやってない」。そこに、ウィーラーが来て、「盗まれた!」と訴える(3枚目の写真)。2人は否定するが、管理人は、「黙れ! 川に投げ込まれたたいか!」と騒ぎを収め、「何があった?」とウィーラーに訊く。「おいらが寝てる間に、彫像〔picture〕を盗んだ!」。「どんな彫像だ? どこにある?」。卑劣な先輩スパローは、「ここさ」と言ってカメオを取り出すと、そのまま川に投げ捨て〔すぐ横が川〕、逃げていく。ウィーラーは、カメオを失いたくないので、泳げもしないのに真っ黒な川に飛び込む。それを見た管理人が上着を脱ぎ始めるので、映画には映らないが、飛び込んでウィーラーとカメオの両方を救ったのだろう。
  
  
  

ウィーラーは、水浸しになったボロを洗って干す。これで、以前のような悪臭ぷんぷんからは、状態が少し改善された。親切な管理人は、温かい飲み物も用意してくれ、カメオを見ながら、「お前は変わった奴だな。本当に彼女が気に入ったのか?」と尋ねる(1枚目の写真、矢印はカメオ)。「はい〔Yes, sir/ウィーラーが “sir” を付けて話した場合は、敬語調で訳した〕。とっても」。「大概の奴らは彼女に好意を持ってない。陰気な城に、修道女みたいによそよそしく暮らしてるからな。『イングランドにとって、いなくたって同じだ』と言う奴らもいる。『いったいどうなっとる。服喪から15年も経つのに。どうかしとる』ってな」〔共和主義者の主張〕。「そうなの?」。「そんなこたぁない。彼女は、ただの年取ったレディだ。悲しみにくれる冠を頂いたレディだ。何と呼ばれてるか知っとるか?」。「何て?」。「『イングランドの母』。正確には、全イングランドの母。俺たちみんな彼女の子だ。その何百万もの絶望した子が、哀れな統治者に救いを求めとる」。ウィーラーは、カメオの彫像を見ながら、「母さんみたいに見える」と言う。「お前の母さんに似とるのか?」。「母さんなんか いないよ」。「誰が面倒を? 親爺さんか?」。「ううん、父さんもいない」。「じゃあ、誰が?」。「誰も」。そして、「この人、誰?」と訊く。「もちろん、ヴィクトリアだ。今まで、誰の話をしてたと思う?」。「そうだけど、ヴィクトリアって誰なの」。「我らが国の女王ヴィクトリアが誰か、と訊いとるのか?」。「聞いたこと一度もないから」。「そんな奴がおるとはびっくりだ」。ウィーラーの無知さに呆れた管理人は、「イングランドのことは知っとるか?」と訊く。知っているとの返事だってので、「何だ?」と訊く。「場所です、よね?」。「どこにある?」。「ロンドンの中」。「違うぞ、坊主、逆さまだ。ロンドンはイングランドの中にある。俺たちが座ってるロンドンは、南の方にある町だ。イングランドは、その全部だ。そして、お前が『彼女』って呼んだレディは、そのイングランドの女王なんだ」。これだけ説明すると、管理人は、「女王陛下のことを知らないんなら、何でその彫像を取りに、命がけで川に飛び込んだんだ?」と尋ねる。「顔が好きだったから」(2枚目の写真)。「顔がか?」。「はい。彼女の顔は『母さん』に見えます」。「お袋さんはいないんだろ?」。「誰にでも母さんがいる。おいらだって欲しいよ」。そして、「一度でいいから、この目で見てみたい」と言う。「そりゃ無理だ。城に閉じ籠ってるからな」。「どこのお城?」。「ウィンザー城。当然、知らないだろ?」。「知りません」。管理人は、城が、ウィーラーが毎日泥まみれになっているテムズ川の上流20マイル強にあると教え、さらに城について詳しく説明する。ウィーラーは、何かに憧れるような顔で、それを聞いている(3枚目の写真)〔ウィーラーの場所は不明だがロンドン橋と仮定し、テムズ川沿いに歩くと、ウィンザー城までは約45マイルある。ちゃんとした道などついていないので、歩行速度を時速3キロとすると、到達するのに丸1日かかる〕
  
  
  

ウィーラーがウィンザー城の正門前に着いた時、日はもう暮れていた(1枚目の写真、矢印はウィーラー)。浮浪児なので番兵に追い払われる。しかし、その時、ディズレーリ首相の乗った馬車が着き、門が開く。ウィーラーは、門の脇の小さな通用門の格子につかまって、通っていく馬車を羨ましそうに見る。すると、通用門がウィーラーの体の重みで開く。ウィーラーは誰も見ていないのを確認し(2枚目の写真)、中にそっと入り込む。
  
  

ディズレーリ首相のウィンザー城訪問のシーンは、映画開始12分41秒から24分21秒。古い映画はオープニングクレジットが長いので、本編は1分27秒から始まる。ということは、これまで紹介してきたウィーラーのシーンより、次のシーンの方が長いことになる。ところで、ベンジャミン・ディズレーリが首相になるのは、1868年2月~12月と1874年2月~1880年4月の2回。ディズレーリを英国の国政史上有名にしたのは、第2次内閣の時。1875年、財政破綻したエジプト政府からスエズ運河の全株を購入し、西アジアからインドにかけての帝国主義的戦略において扇の要にあたるスエズ運河の管理に強い発言権を得たのはディズレーリ主導の戦略。1877年には、ヴィクトリア女王がインド女帝を兼任するイギリス領インド帝国を誕生させた。現在から見れば悪しき植民地主義の急先鋒ではあったが、歴史的に見れば大英帝国の絶頂期を築いた名宰相である。しかし、ディズレーリが首相になる前は、ヴィクトリア女王は死んだも同然の存在だった。配偶者であった王配アルバートが死亡した1861年12月14日以降、悲しみに沈んだヴィトリア女王はウィンザー城かバルモラル城に閉じ籠り、英国民に顔を見せることを忌避した。そのため、王室不要論を唱える共和主義が広がり始めていた。それを食い止め、ヴィクトリア女王を説得し、引き籠りを止めさせたのもディズレーリの大きな功績。この映画では、ウィーラーの事件をきっかけにして、ディズレーリがヴィクトリア女王の決心を変えさせるのが物語の主軸となっていて、この場面は、その前段階に当たる〔なお、映画では、アルバートの死後15年という台詞があったが、1861年12月に15年を足すと、1876年12月となる(後で、翌々日がクリスマスだと分かる)。確かに、この時期ディズレーリは首相だが、実は、ディズレーリの説得でヴィクトア女王が公の場所に姿を見せたのは1872年2月27日で、この時に、ロンドンでパレードに参加している。だから、映画の年代設定は5年食い違っている〕。この場面の冒頭、首相が女王に拝謁する前、キルトを着た使用人ジョン・ブラウンがブロークンな言葉で首相を出迎える(1枚目の写真、右がブラウン、左がディズレーリ)。このブラウンは、ヴィクトリア女王の寵愛を受けた従僕で、死後、作られた銅像の台座には、「使用人よりは友人。正直、勇敢、忠実。死してなお、義務よりは無私」と刻まれている。映画『Queen Victoria 至上の恋』(1977)の主人公だ。ブラウンの案内で女王の部屋に行ったディズレーリ首相が、暖炉の前で話し始めると(2枚目の写真)、女王は、亡きアルバートも暖炉の前が好きだったと言い、女王が如何に思い出に浸っているかを観客に分からせる。そのあと、首相は、「陛下が長い間ロンドンにお起し頂いておられないことが議論を呼んでおります」「ある晩、バッキンガム宮殿の前で数千人が示威行動を行いました後、何者かが正門に「貸家」という紙を貼りました。王国が君主不在で忘却されていることを揶揄したものと思われます」と危機感を露(あら)わにする。そして、そうした動静は、内閣が行おうとしている、スラムの浄化、公営住宅の建設、貧困層にも手の届く教育などの政策に、5対1で反対者が賛成者を上回る事態を招いていると訴える。さらに、庶民院(下院)では共和主義が協議事項となり、貴族院(上院)では王室経費の配分が問題視されているとも訴える。そして、その対案として、「招待状がございます。ファウンドリング病院〔孤児の養護施設〕の理事達が、百周年記念行事に陛下のご光来を仰いでおります。重要な行事ではありませんが、陛下が了承されれば、その便益には計り知れないものがございます」と出席を促す。しかし、女王は拒否する。そして、自分はウィンザー城にいるよりも、亡きアルバートの思い出のつまったスコットランドのバルモラル城にいたいと切々と話す(3枚目の写真)。
  
  
  

ウィーラーが城館近くの道を歩いていると、暗くて何も見えなかったので、いきなり穴に落ちる。ウィーラーは、頭を先にして、鉄の斜路を滑り落ちて行く(1枚目の写真、矢印は頭、その左に手が見える)。落ちて行った先は、石炭の山。そこに頭から突っ込んだので、顔が石炭で黒くなる。ウィーラーは、頭をもたげて様子を伺うと(2枚目の写真)、立ち上がり、斜路を這い上がろうとするが、つるつる滑るので、登るのをあきらめる。残る唯一の出口は、石炭係用の らせん階段しかない。ウィーラーは、慎重に上がって行く(3枚目の写真)。
  
  
  

階段を出た所は長い廊下になっていて、両側に胸像を載せた列柱がずらりと並んでいる。ウィーラーは、物珍し気に見ながらゆっくりと歩く(1枚目の写真)。すると、ドアが開く音が聞こえたので、走って角を曲がる。そちらの廊下は、両側に陶器の壺を置いたチェストが並んでいて、ウィーラーはその陰に身を隠す(2枚目の写真)。そのチェストの先10メートルほどのドアは、レディ・エミリーという若い女性の部屋で、そこにジョン・ブラウンが、「彼女がすぐ会いたいと望んでおられる」と呼びに来る(3枚目の写真)〔ブラウンが「彼女」と言えば、ヴィクトリア女王のこと〕〔エミリー(女王付きの女官の娘)と、近衛兵のマックハトン中尉との間の恋に関する挿話は、ここではすべてカットする〕
  
  
  

ウィーラーは、レディ・エミリーがいなくなったので中に忍び込む(1枚目の写真)。最初の部屋には、面白いものが何もなかったので、隣の部屋を覗くとそこは寝室だった。ベッドに初めて触ったウィーラーは、上に乗って体を揺すり、フワフワ感を楽しむ。そして、ベッドの前のテーブルの上に置いてある小粒の西洋スモモ(?)のお菓子を1つ口に入れてみる(2枚目の写真、矢印は皿に残ったお菓子)。味に気に入ったウィーラーは、残り〔10個ほど〕を全部ポケットに入れる。スモモには種があるので、入口の部屋に戻ったところで、絨毯の上に吐き出し、2個目を口に入れて廊下に戻る。そこでも、ウィーラーは、種をペッと吐き出す(3枚目の写真、矢印は飛んでいく種のうっすらとした軌跡)。
  
  
  

3個目を口に入れたウィーラーの目の前に現れたのは、女王のダイニングルーム(1枚目の写真、矢印はウィーラー)。あまりに絢爛豪華なのでドギマギしながら入って行き、一番奥の席〔女王の席〕まで行くと、種を脇に吐き出し、テーブルの上に置いてあった角砂糖(?)の皿を手元に置き、1つ取って口に入れる(2枚目の写真、矢印は角砂糖の皿)。しかし、こちらは口に合わなかったので、手に残った半分と、口に入れた半分の両方を皿に戻す。すると、誰かがダイニングルームの入口に近づいてくる音がしたので、慌ててテーブルの下に隠れる。中に入って来たのは、家令と女性の召使。家令は、女王の席の横の絨毯にロウソクのシミを見つけと、召使にきれいにするよう命じる。その後で、角砂糖の皿が動かされているのに気付き、「誰が動かした?」と訊くが、返事は、「存じません」。家令は、皿を元に戻し、絨毯の上に落ちていた種を拾うと、ダイニングルームを出て行く。ウィーラーは、目の前に召使の脚が見えるので、どうしようかと迷う(3枚目の写真、矢印)。
  
  
  

そこで、テーブルクロスをめくって外を覗いてみると、まともに目と目が合う。驚いた召使は、「ここで何してるの?」と訊く。「何も悪いことしてないよ」(1枚目の写真)。「出てきなさい」。ウィーラーは、テーブルの下を這って逃げるが、周りを歩く方が速いので、すぐに引っ張り出される。そして、「気は確か? 衛兵に捕まりたいの?」と訊かれると、「何もしてないったら!」と答える。召使は「あんた誰なの? そんな汚い格好で陛下のダイニングルームに入っちゃいけないのよ」と言った後、ウィンクして、「見つからないよう、外に出ないとね」と言ってくれる。しかし、すぐに複数の男性の召使が入って来て、カーテンを閉めたり、イスを直したりし、その間、ウィーラーはテーブルの下に戻され、女性は、その前で、絨毯の汚れを取る振りをする(3枚目の写真)。
  
  
  

そこに、テーブル上のロウソク〔7本×2ヶ所〕に火を点ける係が入ってくる。男が手にしているのは、先端にロウソクの付いた棒。棒の先のロウソクに、既に火が点いている部屋のロウソクから火を移し取り、それを使ってテーブル上のロウソクに火を点けるというもの。しかし、男は、絨毯の上に座っている召使を見つけると、「やあ、ミス・ヌーナン」と気安く声をかける。「昇進したのか? この部屋で見るのは初めてだな」。ヌーナンは、その男が嫌いな上に、ウィーラーのために早く出て行って欲しいので、「私が昇進しようがしまいが、関係ないでしょ」と、素っ気なく答える。「愛想のないことで」。「仕事中よ」。「別の時なら、いいのかな?」。「今は、話したくないわ」。ヌーナンに気のある男は、彼女の気を惹こうと、「見てる前で、城に火を点けてもいいんだぞ」と言い、手に持った火点け棒を、テーブルクロスの下に入れる。「スラッタリー、私たちを焼き殺したいの?!」。スラッタリーは、それを予行演習と呼び、今度は、カーテンの縁に火点け棒を近づける(1枚目の写真、矢印は火)。次いで、その横のカーテン、さらに、ウィーラーの隠れているテーブルの下に火点け棒を突っ込み、クロスをまくり上げる(2枚目の写真、矢印は火)。ウィーラーを見つけたスラッタリーは、「神かけて、このガキは何だ?!」と驚き、彼を引きずり出す。ヌーナンは、「放っておいてあげて」と頼み、ウィーラーも、「おいら、悪いこと何もしてないよ」と言うが、スラッタリーは、「陛下のテーブルの下に隠すなんて何事だ?」と非難する。「まだ子供じゃないの」。「何を言ってる! 陛下のテーブルの下に蛇を隠すとは。君の子なのか?」。ヌーナンは、スラッタリーの頬をぶつ。「私は “ミス” よ」。「じゃあ、ネイズビー〔家令〕に任せるとしよう」。ヌーナンは、スラッタリーのことを、“ミスター・城燃やしさん” と呼び、家令に話したら、城に放火しようとしていたことを話す、と脅す(3枚目の写真)。スラッタリーは、ウィーラーも「城燃やし」の話を聞いていたと知ると、蒼白になって立ち去る。しかし、彼が邪魔したお陰で晩餐の時間が来てしまい、ヌーナンはウィーラーをカーテンの裏に隠す〔カーテンと窓の間には、かなり広い空間がある〕
  
  
  

いよいよ晩餐が始まる。ヴィクトリア女王を先頭に、ディズレーリ首相が女性と手を組んで別格で部屋に入ってくる〔相手が王族なのか、ディズレーリ夫人なのか不明〕。テーブルの両脇にはイスの数だけ召使が並んで整列し、家令のネイズビーが、女王の座るイスを引くために一人画面に背を向けて待っている(1枚目の写真)。その頃、ウィーラーは歩き疲れたのと、夜も遅くになったので、カーテンの裏で横になって あくびをしている。食事が進み、女王が、バルモラル城での亡き王配の思い出を話そうとした時、急に言葉を止める。ブラウンは、「どうか なさいましたか?」と尋ねる。「変な音を聞いた気がします。誰か聞いた者は?」。全員が否定する。女王は、気を取り直して話し始めるが、すぐにまたストップ。映画は、ウィーラーの寝顔を映す(2枚目の写真)。「何も、聞かなかった?」。再び、全員が否定(3枚目の写真)。ブラウン:「どんな音でした?」。「息を吸うような音。もしくは、あり得ない話しですが、いびきの音」。その言葉に、全員が戸惑う。女王が、「今の音」と言うと、いびきの音が聞こえる。「この部屋に誰かいます!」。女王は、そう言うと、立ち上がり、すぐに部屋を出て行く。テーブルについていた女性達は全員女王の後に続き、最後にディズレーリがドアを閉める。
  
  
  

後には、テーブルについていた男性達と、召使達、ネイズビー、ブラウンが残される。ブラウンは短刀を抜き、カーテンの後ろが怪しいので女王の近くのカーテンを一気に開け、中の空間に誰か隠れていないかをチェックする。その隣のカーテンの裏で寝ていたウィーラーは、とっくに目が覚めていて、陰から飛び出し、テーブルの下をくぐって反対側に逃げようとする(1枚目の写真)。しかし、部屋の中には20人以上の男性がいるので、すぐに取り囲まれてしまう。ウィーラーを見たブラウンは、「ただのガキだ」と言って、短剣を収める。男の一人が、「ここで何をしている?」と訊くが、別の一人が、「何て臭いんだ!」と言い出し、その意見が大勢となる(2枚目の写真、矢印はウィーラー)。「ここから連れ出せ。部屋中を汚染する」。家令のネイズビーは、「分かりました。すぐに洗ってまいります」と言い、ウィーラーを抱え上げる。ウィーラーは、「洗うなんてイヤだ! 放せ、デブ豚!」と全身で抵抗するが、2人がかりで召使用のホールに連行される。
  
  
  

女王と首相、それに後から加わったブラウンが話し合っている(1枚目の写真、女王の隣は女王付きの女官)。女王:「年は?」。「10歳以下かと」。「まだ、子供じゃないの」。「私の親指くらいの腕白です」。「何て奇妙な」。「背後にどんな恐ろしい陰謀があるのか、調べてみます」。「そう考えるの?」。「よく分かりませんが、あの子は吹き矢を持っているかもしれません」。しかし、ウィーラーに関する話題はすぐに立ち消えになる。女王は、国民感情の悪さについて、「私に幅広い人気があるなどという幻想は持っていません。年が経つうち、支持されようが憎まれようが、どうでも良くなったのです」と本心を述べる。首相は、「確かに温かい気持ちはないでしょうが、憎しみもありません。最悪でも不満でしょう。かつて愛したものを失ったことへの不満です」と、態度を変えるよう促すが、女王は、「義務の履行について、不満がありますか? 何か否定的なことをしましたか?」と訊き、Noの返事を受けると、「ならば、方針を変えるべき強い理由はありませんね」と切り返す。首相はさらに、「ご意見を申し上げる前に慎重に検討した結果、これしか成功の希望が持てないと判断したのです。もし陛下を納得させられなければ、敗北の重荷は我々にではなく、最も貧しくて弱い人々にのしかかります」と、決断を迫るが、「それについては、もう話したくありません」とばっさり。「私は、ここで公務を行います。これからもずっと」。そして、「できれば退位したいわね」とも。「あの子供のことで、そんなことまで おっしゃるとは!」。「子供には関係ありません。自身のことを思ったまでです」。一方、召使用のホールでは、樽が用意され、裸にされたウィーラーが石鹸まみれにされ、頭からじょうろで水をかけられる(2枚目の写真)〔12月末なので、凍るように冷たいはず(湯気が立っていないので温水ではない)〕。ネイズビーが、「顔だ、ホプキンズ」と命令すると、ホプキンズが顔をごしごし洗う。ネイズビーは、次に、消毒薬〔恐らくクレゾール〕を持ってこさせ、「動かないよう押さえていろ」と命じ、頭から1ビン丸ごとかける(3枚目の写真、赤の矢印はビン、黄色の矢印はウィーラーの頭)。ウィーラーは悲鳴を上げる。
  
  
  

ウィーラーは大人用の服を着せられ、イスに座らされる。前のイスには、怖いネイズビーがやってきて(1枚目の写真)、尋問を始める。「おい汚いチビ乞食、このお城で何をしとる?」。「何もです。誓って。見たかっただけで…」(1枚目の写真)。「嘘をつくな。つこうともするな」。「ほんとです。男の人に訊いてみて。何もしてないと言ってくれます」(3枚目の写真)。「どんな男だ?」。「ウィンザー城を燃やそうとしてた人」。この言葉で、スラッタリーは震え上がる。「それは、どんな奴だ?」。「名前は知りません」。スラッタリーは、部屋から逃げ出す。そこに、入れ替わりにブラウンが入ってくる。ネイズビーは、ウィーラーの話など全く信じない。「でたらめを言うんじゃない、この嘘つき。正直に話さないと、死ぬまで監禁するぞ」と脅す。
  
  
  

それを聞いたブラウンは、「ネイズビー、お前は阿呆だ」と言う(1枚目の写真)。「何ですと?」。「阿呆と言ったんだ。そこをどけ」。ネイズビーは部下の前でメンツが丸潰れだが、相手が女王の寵愛を受けた従僕とあっては、仕方なく席を譲るが、「待って下さい、ブラウンさん。あなたは、城のこの区画では、何の権限もないんですよ」と文句を言う。「お前は阿呆だと言っただろうが。子供を死ぬほど脅して何が訊き出せると思うんだ?」。そうピシャリと言うと、今度は、ウィーラーを見て、「いいか、よく聞け、このゴロツキ。縛り首は好きか?」と訊く。「お願いです。縛り首はイヤです」。ネイズビーは、ブラウンのやり方が自分よりえげつないので、「何が『阿呆』なんです?」と口を挟むが、無視される。「誰かがお前を城に送り込んだ。悪意ある意図の元にな。そいつは誰だ? 父親か?」。「いません」(2枚目の写真)。「じゃあ誰だ?」。「いません。歩いてきました」。「ロンドンから?」。「そうです」。「誰が、城の中に入れた?」。「滑り落ちました」。「誰が、そうしろと言った?」。「歩いてたら、穴に落ちたんです」。「どんな穴だ?」。「知りません」(3枚目の写真)。ウィーラーが泣いているので、「泣くのはやめろ!」と叱る。見かねたヌーナンは、「そんなに怒鳴ったら、熊でも怯えます」と口を出す。その言葉に、やり過ぎを反省したのか、ブラウンは急に、「これは腹ペコ顔だな」と言い出す。そして、ネイズビーに向かって、「何て奴だ。牢獄でも、縛り首の前に腹ペコにはさせんぞ」と、嫌がらせを言うと、ヌーナンに、「何か食い物を持ってきてやれ」と命じる。
  
  
  

ブラウンはウィーラーを食卓に座らせる。ネイズビーは、「近衛兵にすぐさま通報すべきではありませんか?」と勧めるが、ブラウンは、「邪魔するな」と鼻にもかけないので、ネイズビーは自分で通報しに行く。ヌーナンが肉とじゃがいもの乗った皿を持ってきて、ウィーラーの前に置く。「さあ、小僧、食べるがいい」。皿の両側にはナイフとフォークが置かれていたが、使ったことにないウィーラーは肉を手でつかんで口に入れる(1枚目の写真)。「何てこった、ハイランド〔スコットランド北部〕でも そんなことはせんぞ。フォークはどうした? 見たことがないのか?」。そう言うと、ブラウンはウィーラーのフォークを手に取り、肉片を刺してみせる。「ほら、こうするんだ。やってみろ」。ウィーラーは肉を刺して口に運ぶが、舌が邪魔をして肉が落ちてしまう。そこで、ブラウンは、フォークで刺した肉を、口を大きく開けて中に入れ(2枚目の写真、矢印は肉)、食べてみせる。それだけやってもらえたので、ウィーラーも、口を思いきり大きく開け、肉を口に入れることができた(3枚目の写真)。この場面のブラウンは、先程までと違い、好々爺のようだ〔違和感もある〕
  
  
  

ネイズビーは、当直のマックハトン中尉を呼びに行く。そして、「来て下さい。陛下のお命がまだ危険です。暗殺者が召使ホールにいます」と、とんでもない報告をする。相手が家令なので、報告を真に受けた中尉は、厳しい表情でホールに直行するが、ウィーラーはブラウンにどこかに連れて行かれて、もういない。中尉は、ブラウンの勝手な行動を罵り、家令を通じて全使用人に2人の徹底的な捜索を命じる。一方、ブラウンは、ウィーラーに、“歩いていたら落ちた穴” に案内させる。まだ深夜なので、辺りは真っ暗で何も見えない。「この辺りです」。「わしは、お前のことを信じ始めたが、この件では嘘をついておるな。この辺りのことは 手に取るように知っておるが、そんな穴などない」(1枚目の写真)。そう言い終わった途端、ブラウンは石炭を入れる穴に落ちる。次のシーンは、石炭庫から炭塵まみれになって戻ってきたブラウンが、自分の部屋にウィーラーを連れて行ったところから始まる。ブラウンは、顔の汚れは放っておいて、まず怪我をした膝をウィスキーで消毒する。そして、飲み終えたビンを床に捨てる。「続けろ。聞いてるぞ」。それまでに、ウィーラーの話は進んでいたようで、「床で寝てしまいました」と、ダイニングルームでの内容になっている。これで、顛末は分かったので、ブラウンは、「彫像はどこだ?」と訊く。ウィーラーがカメオを見せると(2枚目の写真)、すべての話が真実だったことが確定し、ブラウンから信頼されるようになる。ブラウンはカメオを返すと、自分と女王が写った写真を誇らし気に見せる。そこには、「忠実な召使にして良き友ジョン・ブラウンへ、ヴィクトリア・R〔“R” はRegina(女王)の略〕」と書かれている(3枚目の写真)。ブラウンは、それを15年前、ワイト島にあるオズボーン・ハウスで拝受したと話す。15年前といえば1861年、王配殿下アルバートの死亡した年だ。1848年からバルモラル城で働き始めたブラウンは、ハイランドでの1日登山の時にお供をして、「invaluable Highland servant(かけがえのないハイランドの召使い)」と好かれたが、2人の仲が変わるのは、アルバートの死以後。女王は、1863年10月7日に2人の娘と乗馬を楽しんだ後の落馬でひどい怪我をし、その回復過程の中でブラウンとの親密度を増していく。11月の女王の日記には、「彼は私にとても献身的だ ― とても地味で、とても知的で、他の召使ととても違っていて、とても朗らかで、とても気配りができる」と書かれている。従って、「15年前」という台詞は間違っている。あるいは、映画の冒頭と、終わりに、アルバートの死を「15年前」と言う台詞が間違っている。なお、4枚目は、映画の中の写真に最も近いイメージの油絵。
  
  
  
  

ウィーラーは、「眠っちゃわなかったら、見ることができたのに」と残念がる。それを聞いたブラウンは、新しいウィスキーの栓を開けながら、「まだ間に合うかもしれんぞ、小僧」と、意外なことを言い出す。「どういう意味ですか?」。ブラウンは、「ちょっと待っとれ」と言うと、グラスにウィスキーを注ぎ、「すぐに、楽しい気分になるからな」と一気に飲み干す。かなり酔っている感じだ。「本当に見てみたいのか?」。「はい。でも、これ以上怒られたくありません」(1枚目の写真)。「差し向かいでお会いして、お話ししてみたくないか?」。「分かりません。きっと、怖いんです」。「怖い? 怖れる必要がどこにある? ただの年取った女性じゃないか。それも、すごく素敵な。それに、わしも一緒だぞ、小僧」。「大丈夫なんですか?」。「何が?」。「よく飲んでおられます」。ブラウンは、怪我の “感染防止” だと言って安心させると、ふらふらしながら携帯用のロウソク立てを手に取り、「行くぞ。きっと喜ばれる」と言って、ウィーラーを引き連れて部屋を出る。部屋の前のらせん階段を下り、廊下に出たところで、ブラウンは、「何事を決める際も、まず、わしに相談されるんだぞ」と自慢する(2枚目の写真)。その頃、女王の広大なベッドルームでは、お付きの女官が就寝前の会話を交わしている。「彼〔ウィーラー〕を直接見ましたか?」。「はい、陛下」。「どんな様子でした?」。女官は、「子供なんかじゃなく、“小びと” でした」と言う。自分で捏造したのか、噂を聞いたのか分からないが、女官としての責任を放棄したひどい女性だ。一方、ブラウンは、ウィーラーが最初に通った廊下まで連れて行く。「広いお城だろ、小僧? もっと見てみたいか?」。「はい、安全なら」。酔っ払ったブラウンは、最初に王座を見せることにする。その姿を2人の女性の召使が見つけ、通報しようと走って行く。ブラウンは、王座の間の前にある2つの巨大な部屋を、城のガイドのように説明しながら通り抜けて行く(3枚目の写真)。
  
  
  

2人は遂に王座の間に入る(1枚目の写真)。ウィーラーは、巨大な部屋の奥にある王座まで、部屋の中央を真っ直ぐ歩いて行く。ブラウンは、王座の脇にロウソク立てを置くと(2枚目の写真、部屋の奥行きがよく分かる)、王座の説明を始める。「象牙、金、ルビー、エメラルド、ムーンストーン、すべてインドから来た宝物だ」。そして、「陛下に」と言って、またウィスキーをがぶ飲み。王座をぼーっと眺めているウィーラーを見たブラウンは、「何を考えとるんだ、小僧?」と尋ねる。「え?」。「座ってみたいか?」。「そんなことしても?」。「なぜ いかん? 小姓どもは、誰も見てない時に座って遊んどるわい。ほら、座ってみい。だが、脚でクッションを汚すんじゃないぞ」。ウィーラーは促されて座ってみる。「どうだ、小僧? 王様になった気がするか?」(3枚目の写真)。「いいえ、でも、すごく変な気分です」(4枚目の写真)。ブラウンは、短剣を取り出して王座の前に片膝をつくと、「小さき王よ、吉報をもたらした勇敢なる船長に爵位を与え賜え」と悪乗りする。泥酔のあまり見境がなくなっている。
  
  
  
  

そこに、マックハトン中尉を先頭に、召使の一団が入って来る。ウィーラーは、驚いて立ち上がる。中尉は、「この汚い乞食め、そこから降りろ!」と命じる。ブラウンは、「止まれ! 誰だ?」と怒鳴る。「下がれ、ブラウン。子供に用がある」〔宮廷の事情に疎い中尉は、相手が “たかが女王の付き人” だと思い、ブラウンに敬意を払っていない〕。「何だと、勇敢なる女王の戦士が、小僧を守っとるのにか?」(1枚目の写真)。「そこをどくんだ、ブラウン」。ブラウンが反論し始めた時、今度はネイズビーを先頭に残りの半数が走り込んでくる。「城中で、わしらを攻撃する気か?」。中尉が、ウィーラーに「こっちに来い」と命令すると、ブラウンは、「わしが、そう言うまで動くな」とウィーラーに命じる。怒った中尉は剣を抜き、どくように命じる。ブラウンが、短剣で剣を叩いて気勢を上げると、「そこを降りたまえ、ブラウンさん」と冷静な声が響く。ディズレーリ首相の登場だ〔中尉と違い、女王に対する影響力を知っているので、“Mr.” を付けている〕。「誰だ?」。「そこから降りて、子供を中尉に渡すんだ」。ウィーラーは、「行きたくない。ブラウンさんと一緒にいたい」と言うが、中尉の「捕らえろ」の言葉で、近衛兵に拘束されて連れ去られる(2枚目の写真、矢印はウィーラー)。同時に、立っていられなくなったブラウンは、床に転倒する。首相は、家令を呼ぶと、「ブラウンさんは、君が部屋まで付き添えば感謝するだろう」と命じる〔家令は単なる “その他大勢” の使用人の一人、ブラウンは対女王戦略にとって “味方につけたい” 存在〕
  
  

ウィーラーは、夜のうちにロンドンまで連れて行かれ、朝から警察の取り調べを受ける(1枚目の写真)。この部分は、台詞はなく、代わりに新聞の号外が挟まれる。中でもひどいのは、「小びと殺人鬼の謎」というもの(2枚目の写真)。情報の出どころは、あの女官か? それとも、女官に嘘を話した召使か? 一方、ウィンザー城では、「タイムズ」を読んだ女王が、まだ城に滞在していた首相を呼びつける。ディズレーリは、新聞記事に関する女王の問いかけに対し、「この出来事は深刻だと存じます」と答える。「彼の目的が何であったにせよ、まだ子供なのですよ」(3枚目の写真)〔昨夜の女官の “小びと” 発言を、女王は信じていない〕。「ロンドンに戻りましたら、直ちに事実を告げ、この馬鹿げた噂を終わらせます」。この発言に対しても、女王は過敏に反応する。「それこそ、してはならないことですよ! 如何なる形であれ政府が関与して 事態を重大化させることは避けるべきです」。「しかし、庶民院で正式な議題となった場合、覆い隠そうとすれば謎を深めることになります。そのような場合でも、何も話すなとおっしゃるのですか?」。「あなたが分からなくなりましたよ、ディズレーリさん。そんなに異論がお好きだとは思いませんでした。私の望みに応じて頂きたいですね」。ディズレーリは黙って頭を下げる。「ありがとう」。女王は、さらに、昨日のディズレーリの提言を無視するように、ファウンドリング病院からの招待状に対する断りの手紙を渡す。こうして、失意のうちに首相はロンドンに戻る。
  
  
  

ウィーラーは、ロンドンの地下牢に監禁されている(1枚目の写真)。そこに、警部(?)が入って来て、「メリー・クリスマス、ウィーラー」と声をかける。さらに、「取り調べの際、お前は、以下の友人と知人の名前を、潔白さの証人として挙げた」と言い、7人の名前を読み上げる。そして、ウィーラーが牢獄の戸から出ると、そこには11人の男女がずらりと並んでいた(2枚目の写真)。懐かしい顔を見たウィーラーは笑顔になって、「やあ、スパロー」と呼びかける(3枚目の写真)。スパローは、思わず「新しい服着てる」と言うが、隣のおばさんから、「お黙り」と制止される。警部が、「この少年を知ってるか?」と訊くと、スパローは、「一度も見たことありません」と答える。「スパロー、おいら ウィーラーだよ」。「何だと?」。「知ってるだろ」。「嘘つくな!」。警部は再度、「この少年は、お前達を知ってると言っておる。お前達は知っとるか?」と訊く。すると、全員が様々な言い方で否定する。「本当か?」。一斉に「はい」。「おいら、ウィーラーだよ!」。「ウィーラー? 誰だね?」「聞いたことないな」「誰だ?」。警部は、部下に、「連れ出せ」と命じる。ウィーラーは、出て行こうとするスパローに声をかけるが無視される。必死になったウィーラーは、警部に、「スパローは、おいらの友だちなのに、なぜ あんなこと言うの?」と尋ねる。警部は、ウィーラーがもう一度スパローと話すことを許す。2人だけになったウィーラーが、「なぜ、あんなこと言ったの?」と訊くと、スパローは、「なんで俺のことをサツに言った?」と非難する。「名前を言っただけだよ」。これで許してもらう。「なんで捕まった?」。「ウィンザー城にしのび込んだから」。「ウィンザー城?」。「警官にきいてみてよ、話してくれる。王座にも座ったんだ」。「なんで行ったんだ?」。「女王さまを見たかったから」。「殺されたんだぞ」。「誰が?」。「女王だろ」。「誰が殺したの?」。「人殺しさ」。「いつ?」。「昨日だ」。「どうして殺したの?」(4枚目の写真)。「金持ちだからさ。そいつは、60シリングと宝石を盗んだらしいぞ」。「どうやって殺したの?」。「頭を叩き割った」〔とんでもないデマが飛び交っている/盗まれた金額の少なさは、如何にも貧しい浮浪児らしい〕。誰にも助けてもらえないことが分かったウィーラーは、地下牢に戻されると泣き崩れる。
  
  
  
  

ダウニング街10番地の首相官邸で。秘書(?)が「タイムズ」を手に近寄り、「これ、ご覧になりましたか?」と訊く。ディズレーリは、「タイムズ」の記事を見る(1枚目の写真)。見出しは、「ウィーラー少年はアイルランドの陰謀か?」となっている。記事の冒頭を訳すと、「ウィンザーの特派員から憂慮すべき報告が寄せられた。それは、女王が受けられたおぞましい体験は、卑劣な陰謀の一環であったという疑う余地はないという識者の見解である。現在のところ、共犯者があったことを覗わせる情報は何も得られていないが、何らかの外部からの関与があったことは明らかである。かくもあからさまな攻撃がアイルランドの団体〔フェニアンのこと〕によってなされたという容疑は、簡単には解消し得ない」〔1870年代のイギリスにとって、「アイルランドが独立のための自然権を有しており、この権利は武装革命によってのみ達成可能」という民族主義フェニアンの台頭は大きな脅威だった〕。ディズレーリは一読し、「くだらない」と言って新聞を返す。「確信がおありですか?」。「アイルランドの陰謀の可能性はない」。しかし、秘書は、数日間は議会を避けるよう進言する。それは、もし陰謀でないとすれば、アイルランドの代表から政府としての事態解明を要求されるからだと話す。そして、女王のロンドン不在を嘆く。ディズレーリは、うまくすれば女王を動かすきっかけになるのではと考え、「では、忠誠心があり、誠実かつ巧妙なディジー〔Dizzy、ディズレーリのニックネーム〕に登場願おうか」と言い出す。そして、マックハトン中尉を呼ぶように命じる(2枚目の写真)。ディズレーリは、ウィンザー城から出向いた中尉に、「私は、あの晩の少年に関して、君が見、聞き、考えたすべてを知らねばならん」と、詳細な調査と報告を命じる(3枚目の写真)。
  
  
  

そして、庶民院で。まず、アイルランド代表が、想定通り、今回の椿事はアイルランドの陰謀などではないと述べ、政府に詳しい調査と説明を求める。それに対し、ディズレーリが立ち上がる(1枚目の写真)。映画開始後1時間19分43秒から始まり、1時間26分30秒まで7分弱にわたって続くワンカットの大演説、稀代の名優アレック・ギネスの見せ場だ。「最初に申し上げておきますが、政府は、陛下に対するアイルランドの陰謀説を完全に否定致します。そのような憶測の根拠は一切ありません。事件は、ウィーラー少年が単独で行った行為であり、責めを負い罰せられるのも彼一人であります。ここは、一人の浮浪児の行為について論じる場ではありません。しかし、こうした浮浪児一般について議論するには適した場だと考えます。実を言いますと、私は、ウィーラー少年の「謎」に興味をそそられました。彼は、どうやって10歳まで生き延びたのか? 過酷な社会が、彼を殺そうとしようとする中で。誕生したその日から、彼は鼠や害虫に囲まれ、悪臭を放つ空気を吸い、毒の水を飲んだ母親の乳を飲んで育ちました。その母親は、彼が歩けるようになる前に、チフスで死にました。父親が誰かは分かりません。かくして、彼は孤児になりました。たった一人で。助ける者はなく、この国に翻弄されます。この国は、彼の精神と魂を破壊しようとしました。何も教えませんでした。神の言葉すら。そして、テムズの岸を裸足とぼろ着でゴミ漁りをさせ、冷気、湿気、熱暑、そして、不品行と邪悪にもさらしました。一切の希望も削ぎました。この国の無関心と残酷さの結果、子供は、イングランドに対し、異常な態度を取るに至りました。異常です。というのは、何も恩恵を受けなかったのに、彼は女王を好きになったのです。だから、ある日、泥の中から出ると、女王に会いに行きました。誰かが、陛下を『イングランドの母』と教えました。我々は、誰もがそれを知ってはいますが、誰も文字通りには受け取りません。しかし、この無垢な孤児は、それを文字通りに受け取りました。どこに行けば女王に会えるのか? ロンドンの通りに行けばいいのか? グリーンパークならいいのか? 皇室の行事が行われる場所ならいいのか? すべて駄目です。過去何年間も、そんな場所はありません。だから、彼は、女王が悲しみにくれている場所に行かなければなりませんでした〔女王の閉じ籠りへの批判を、さりげなく入れている〕。ウィンザーの壁は高いが、ウィーラーを止めることはできませんでした。陛下の近衛兵はイングランドで最高の兵士達ですが、彼は、兵達がいないかのように通り過ぎました。夜になって、彼は王座にも座り、泥で汚しました。そして、ただ一つの不幸な偶然が機会を奪い、望みは叶いませんでした。勝利の瞬間、子供は寝てしまったのです」。こうして、ウィーラーの生涯の冒険を、イギリスの制度に対する批判と、女王の引き籠りに対する揶揄を交えて語ると、そのまま児童に関する制度の一般論に入って行く。そして、大演説の最後は、再びウィーラーに戻り、皮肉を込めて、「ウィーラーが法を破ったという事実を変えることはできませんし、罰せられるべきでしょう。彼を、この国の慈悲に任せるなど、想定すべきではありません。事実、私が彼を弁護しようとしても、何一つ申し立てることはありません。ただし、もし、この事件に陰謀があるとすれば、それは女王に対するものではなく、少年に対するものです。そうは言っても、この国には乞うべき慈悲などなく、裁きしかないのです」という厳しい言葉で終わる(2枚目の写真)。議場は、拍手喝采に包まれる(3枚目の写真)。
  
  
  

夜になり、新聞の内容を聞いた女王は(1枚目の写真)、「ディズレーリさんに、私がすぐ会いたいと望んでいると伝えなさい」と命じる。男が出て行った後、ブラウンは女王の紅茶を用意しながら、「靴にお婆さんが住んでいた」と口にする〔マザーグースの「靴の家のおばあさん 大勢の子の世話してた スープはあるけど パンが足りない お腹が空いたと泣く子もいたが お尻を叩いて寝かせてた」から〕。女王は、「私が国中の子供に責任があるかのように話したんですよ」と首相を非難する。「みんな、あなたの子供なのでは?」。「お黙りなさい」。「黙るのは簡単ですが、どうしても考えてしまいます。炭鉱で働いていたり、真っ暗な中で煙突に降りていったり、家もなく飢えている子供達を考えますと…」。「おやめ!」。「すべて あなたの子供です」。「やめなさい!」。その頃、首相官邸では、ロンドン塔から出され、身だしなみを良くされたウィーラーと2人の紳士が座っている。ディズレーリは、「ウィーラー君、私には、君が悪いことをしなかったとは言えないが、酌量すべき情状のあることも知っている。そこで、君を学校に行かせることにした。それは、これまで何もしてあげられなかったことへの補償であり、陛下の前で演じてくれた役割に対する感謝でもある」。この難しい言葉がウィーラーに理解できたとは思えない(2枚目の写真)。そして、首相は、ウィーラーと2人の紳士を引き合わせる。ウィーラーの行先はデヴォンシャー〔なぜロンドンから離れた場所に行かせるのかは不明〕。ディズレーリは、ウィーラーに、「君の将来は、過去に比べ格段に楽しいものになるだろう」と言い(3枚目の写真)、「君は元気旺盛な子だ。君の名が、もう一度、イングランド中に響き渡る日が来るかもしれんな」と手向けの言葉をかける。ウィーラーは、「ただ、あの方を見たかっただけです」と答える。「分かってる。残念だったな」。3人が出て行った後、首相は、女王からの呼び出しを知らされる。
  
  
  

ウィンザー城まで出向いた首相に対し、女王が最初に投げかけた言葉は、「私はあなたに立腹しているのですよ、ディズレーリさん」というもの。ディズレーリは、「ご説明いただけますか?」と受ける。女王は、庶民院での演説の中で、“女王に対する譴責を公にした” ことを問題視する。ディズレーリは、「譴責〔rebuke〕ではなく、批判〔reproach〕です」と反論する。「女王に救いを求める大衆の声を代弁したことをお忘れになりませぬよう。子供が母に懇願する時、それも譴責なのですか?」。それに対し、女王は、文句を連ねる。「公の屈辱を受けるなどとは、思いもしませんでした。あなたに親密な信頼を抱いてから、1週間と経っていないのですよ。私は、隠れた怖れをさらし、何も隠しませんでした。それを公の場で、あなたが口にするとは」(1枚目の写真)。言い掛かりに近い非難だ。ディズレーリは、「陛下の民の暮らしを改善する方法について議論しただけです」「強い反対がある時には、不誠実なもの以外のあらゆる手段を用いて反対を終わらせるのが義務と心得ます」と妥協の余地を見せない。女王が、それを “最後通牒” と受け取った時、ブラウンが口を挟む。「正しいご判断だとは思いません。殿下が崩御され埋葬されてから15年が経ちます〔“15年前” が出てくる2度目〕。少年は生きています。だから、ご決断をお願いします。ご自身のために。どちらが大切ですか? 死した者ですか、生きている者ですか?」。女王は、ブラウンに下がるよう命じるが、ブラウンは「まだ終わっていません」と言い(2枚目の写真)、言葉を連ねた後に、「死者へ想いは心に留めて置き、生きて母親を求めている者に手を差し伸べて下さい」と訴える。これに対して女王は、「できません。愛されていないのだから」と言うが、ブラウンは、「あなたは女王なのですよ。女王ならば、忘れてはならない規範があります。『The Second Book of the Kings』に書かれているように、『それは、子供のためになるのか(Is it well for the child)?』という質問です。あなたは、まだブリタニアなのです。そして、全員があなたの子供達なのです」と説く。その時、ガタという音がする。「あれは何?」。「分かりません」。カーテンが揺れている。ブラウンが近づいていくと、カーテンが開き、中からウィーラーが顔を出す(3枚目の写真)〔顔が炭で汚れているのは、前回と同じように石炭庫から侵入したため/しかし、ロンドンのパディントン駅から西南西30キロにある城まで、首相とほぼ同時に着くとは、どうやって行ったのだろう? 確かにパディントン駅から直通でウィンザーまで行くことは鉄道なら可能で(開業は1849年)、首相が使った馬車よりは早く着く。しかし、汽車賃はどうしたのだろう?〕
  
  
  

見つかったと思ったウィーラーは逃げ出し、つまずいて転んだところをブラウンに捕まる。「こんな所で何しとる。この子鼠め」。女王は、冷たく、「ここから出しなさい」とブラウンに命じる。「お待ちください」。「出せと言っているですよ」(1枚目の写真)。「無邪気な子供じゃないですか」(2枚目の写真)。「無邪気だろうが関係ありません。連れ出しなさい」。その素気ない言葉に、ブラウンが連れて行こうとすると、ディズレーリが支援する。「もし、陛下がこの勇敢な少年に優しく接せられるなら、この子も、臣民の一人として抱くべき献身について理解するでしょう」。それを聞いた女王は、「ここに連れて来なさい」とブラウンに命じる。ブラウンはウィーラーの帽子を取ると、女王の前に連れて行く(3枚目の写真)。
  
  
  

「ウィーラーですね?」。「はい」。「それは、名なの、姓なの?」。「ただのウィーラーです」。「あなたは、大層な悪戯っ子ですね、ウィーラー」。「はい」。ウィーラーは、思わず微笑んでしまう。そして、振り向くと、ブラウンに「彫像と同じだね」と言う。「何て言ったの?」。ブラウンは、「彼は、あなたの彫像が好きなんです」と説明し、ウィーラーに「持ってるか?」と訊く。ウィーラーはカメオをポケットから出す。「それを見ても?」。「ほらお渡しして。返してもらえるから」。ウィーラーは女王にカメオを渡す。ディズレーリは、「ブルームさんたち〔デヴォンシャーの学校の関係者〕は、どうしたんだね?」とウィーラーに尋ねる。「パディントン駅で、おいらを捜してます」〔ウィーラーは、2人とはぐれた〕。女王は、「どこで手に入れたの?」と訊く。カメオを取り上げられると思ったウィーラーは、思わず、「おいらのだよ、見つけたんだ」と強い調子で言う。ブラウンは、「彼は、それを船乗りの死体から拾い上げたのです」と説明する。ディズレーリは、「ウィーラー君は孤児です。誰からも見捨てられた中で、陛下の彫像を拝見し 安らぎと慰めを覚えたのです」と口添えする。ブラウンも、「この世界で、只一人なのです」と強調する。女王は、「気の毒ですね、ウィーラー」と同情するが、「あなたは、大変な面倒を持ち込んだのですよ」と責める〔だから、最初は、会うのを拒絶した〕。「わざとしたんじゃありません」。「なぜ、したの?」。「あなたを一目見たかったからです」(1枚目の写真)。その言葉で女王の心も解ける。そして、ウィーラーを自分の前にひざまずかせると、ハンカチを取り出してウィーラーの頬の汚れを拭き、髪を撫でる(2枚目の写真)。「もう、怒っていませんよ」。ウィーラーが、「ありがとう」と言うと、女王も、「ありがとう、ウィーラー」と言う。自分の間違いを気付かせてくれたことに対するお礼だ。“謁見” が終わり、ブラウンに手を取られて “御前” から去りながら、ウィーラーは、「このあと、おいらはどうなるの?」とブラウンに訊く。それを耳にした女王は、「ブラウン」と声をかけ、ブラウンが振り向くと、「面倒を見てやりなさい」と言う。ブラウンは、「そのつもりです」と答える(3枚目の写真)〔ウィーラーは、ブラウンと一緒に暮らすのだろうか?〕
  
  
  

2人が出て行った後、女王は、「病院の皆さんに、もう返答しましたか?」とディズレーリに尋ねる。「まだでございます」。これで、女王のファウンドリング病院の百周年記念行事への出席が確定した。女王はディズレーリに向かって手を差し出し、首相は、「ご理解あるご決断に感謝申し上げます」と言い(1枚目の写真)、口づけをする。映画の最後は、女王が馬車に乗って15年ぶりに国民の前に姿を見せ、大歓迎を受ける場面で終わる(2枚目の写真)。
  
  

   の先頭に戻る              の先頭に戻る
  イギリス の先頭に戻る          1959年以前 の先頭に戻る

ページの先頭へ